♢街の散策と新たな出会い
翌朝……
あれ? もう朝になってる……寝ちゃったのか。寝不足ではないが、少し寝過ごしたような感覚だった。
リビングに入ると、いつものようにミリアがリビングでお茶を飲んでいた。目が合うと、満面の笑みで挨拶をしてきた。
「おはようございます。ユウヤ様」
「おはよ~」
俺も笑顔で返した。
「昨日は、お休みの挨拶に向かったのですが……お休みになられていました……」
ミリアは少し残念そうに口元を膨らませる。その"青く透き通った瞳"が、わずかに潤んでいるように見えた。
「そうだね。夕食を食べて、そのまま寝ちゃったみたいだね」
「もう少しお話がしたかったですわ」
ミリアは、寂しそうにポツリと呟いた。
「これから、ずっと一緒に居るんだから時間もあるし、いっぱい話ができるでしょ」
俺は、ミリアの頭を優しく撫でた。
「そうですわね」
ミリアの"青く透き通った瞳"が、期待に輝く。その表情は、たちまち明るくなった。
「ここにも、しばらく滞在しないとだしね」
「あっ!お店の件ですわね」
ミリアは、何かを思い出したように声を上げた。
「そうそう……いつになるんだろうね?」
「国王が自分で言いだした事ですし、すぐに連絡は来ると思いますよ」
朝食を食べて……俺は、こっそりと屋敷を抜け出して、町の散策に出掛けてきた。ミリアが一緒だと護衛とか大事になっちゃうし……一人で行動できる開放的な気分で、王都の賑やかな通りを歩き始める。活気あふれる声や、焼きたてのパンの香りが、俺の気分をさらに高めてくれた。
一人で町をブラブラと歩いていると、人相の悪い男たちに追われている、同じ歳くらいの娘がいた。その娘は、顔を青ざめさせ、必死に路地を駆け抜けている。彼女の呼吸は荒く、恐怖で瞳が揺れていた。どこの町にも悪そうなヤツはいるんだなぁ……助けた方が良いよな?明らかに悪党に追われているっぽいし……俺は、迷うことなく彼女を助けるために行動を起こした。
♢逃走する娘との出会い町の賑やかな通りを歩いていると、人相の悪い男たちに追われている娘の姿が目に入った。彼女の顔は青ざめ、恐怖に歪んでいた。必死に逃げているその姿は、まるで獲物に追われる小動物のようだった。俺は、迷うことなく彼女を助けるため、逃げて走っている娘の腕を掴み、力強く引き寄せて近くの店の中に隠れた。土埃をまとったその腕は、細く震えていた。触れた腕からは、彼女の極度の緊張が伝わってきた。
「んっ!?ん……っ!」
娘は突然のことに息をのんだ。目を見開き、驚きと恐怖で固まっている。その瞳は、まるでガラス玉のように焦点が定まらず、俺を認識しているのかさえ疑わしいほどだった。
「大丈夫?」
俺は、できるだけ穏やかな声で尋ねた。彼女を安心させたい一心だった。
「きゃぁ!な、なに?え?……あ、ありがと」
逃げていた娘は、驚きと混乱の中にいたが、すぐに状況を理解したらしく、震える声でお礼を言ってきた。その目はまだ警戒心を宿しており、俺の顔色をうかがうように見つめていた。不信感が彼女の表情に張り付いていた。
「何で追われてるの?」
俺が問いただすと、娘はきっぱりとそう言い放った。その声には、強い拒絶の意思が感じられる。まるで、自分の秘密を暴かれることを恐れているかのようだった。警戒心が強いのか、それとも何か隠したいことがあるのか。
「そう……?追ってるヤツは行っちゃったし、もう大丈夫そうだから俺は行くね」
俺が立ち去ろうとすると、娘は慌てて俺の服の裾を掴んだ。その指先は、まだ微かに震えている。彼女の目には、すがるような感情が浮かんでいた。
「ま、待ってよ。もう少し一緒に居てよ……」
その声は、頼りないほど小さかった。
「え? 関係ないって言ってたよね?」
俺は、少し意地悪な口調で返した。彼女の反応を試すような気持ちもあった。
「そうだけど……あなた、暇そうだし良いでしょ!」
なんだ?このワガママ娘は?しかし、その口調は、どこか幼く、必死さが滲み出ていた。まるで、自分の置かれた状況にどうしようもなく焦っている子供のようだった。まぁ実際ヒマなんだけどさ。俺は内心で苦笑した。
「で、なに? 俺は、この町の人間じゃないから町の案内とか出来ないよ?」
俺は呆れたように肩をすくめた。
「町の案内を頼みたい訳じゃないってばっ! もお~」
娘は少し苛立ったように言った。頬を膨らませ、不満げな表情を浮かべている。その仕草は、まだ幼い少女のあどけなさを感じさせた。
「じゃあ何……?」
俺は、次の言葉を促した。
「貴方……帯剣してるじゃない? わたしを町の外まで逃してよ。帯剣をしているって事は冒険者なんでしょ!」
娘は、俺の腰にある剣に目をやり、必死の懇願のまなざしを向けてきた。その目には、切羽詰まった願いが宿っていた。まるで、最後の希望にすがるかのように、俺を見つめていた。
「え? まあ……それは良いけど……多分死ぬと思うぞ?」
俺は、眉をひそめて忠告した。彼女の無謀な提案に、少し呆れを感じた。
「緊張して行けなかったんだと思うよ」 俺は、ミリアに説明した。「そうなのですか? いったい……何に緊張しているのでしょうね?」 ミリアは純粋に首を傾げた。彼女の表情は、心底不思議そうだ。青く透き通った瞳には、なぜ娘がそんなに怯え緊張をしているのかという疑問が浮かんでいた。「緊張は、ミリアには分からないと思うけどなぁ……」 俺は、苦笑しながら言った。ミリアは、生まれた時から豪邸や宮殿に住んでいて、父親は最高権力者で、国王よりも権力があって怖い物知らずでしょ。大勢を前にしても平然としてるし……お偉いさんも平民同様の扱いでしょ? それどころか、グラシス国王さえ同様の扱いだったし。彼女の人生には、緊張という感情が入り込む隙がなかったのだろう。「緊張は……この前に初めて知りましたわ……」 ミリアは意外な言葉を口にした。え? ミリアが緊張を覚えたの? スゴイじゃん! ミリアに緊張を与える程の相手がいるの? そんなスゴイ恐い人にでも出会ったのか? 皇帝よりもさらに上の権力者でもいたのか? 俺の頭の中には、たくさんの疑問符が浮かんだ。「え? ホントに? ミリアを緊張させるとかって、そんな凄いヤツがいるんだな?」 俺は、驚きを隠せないで尋ねた。「ええぇ……とても凄いお方ですわ……緊張して震える思いでしたわ……」 ミリアの青く透き通った瞳が、その時のことを思い出しているのか、わずかに揺れる。その声は、感動と畏敬の念に満ちていた。ほぉ……やっぱり人だったのか、スゴイお方……ミリアが敬語を使い震えて褒めるような相手がいるんだな。「へぇ……それは凄いな……俺だったらどうなってたんだろうなぁ……」 俺は、想像力を掻き立てた。ミ
「ユウヤ様……何を……されているのですか?」 ミリアの "青く透き通った瞳" が、少し困惑したように俺を見上げる。その目には、疑問符が浮かんでいた。「ミリアの頬が柔らかくてスベスベで気持ち良いから、触って癒やされてるだけだけど?」 俺は、悪びれる様子もなく答えた。「ううぅ……やめてくださいませ……」 ミリアが頬を赤くして恥ずかしそうな意外な反応をしてきた。ん? ミリアがイチャイチャしてるのを嫌がってる? 嫌がっては無いようだけど……彼女の指先が、俺の腕を軽く叩いた。「え? 何で?」「もう……到着しているのですよね?」 ミリアは、急に焦り出す。その瞳は、屋敷の方向を見つめていた。「うん。15分くらい前にね」「えぇ……それでは屋敷の者が皆、外で待っているのでは?」 ミリアは急に焦り出す。その顔は、真っ青になっていた。 ドアを開けると外でメイドさん達がずらりと並んで待っていたので……ミリアに恥を掛かせる訳にはいかないので、とっさに俺の方が寝てたように眠そうな顔をした。「ふぁぁ~……良く寝た……ミリア待たせちゃったみたいで悪いな~」 俺は、大きなあくびをしてみせた。ミリアが頬を赤くして小声でお礼を言ってきた。「すみません……ありがとうございます。ユウヤ様」「起こさなかった俺も悪いしね……」「その様な事はありません……幸せでした。それに……庇ってもらえるなんて初めてで嬉しいですわっ♡」 ミリアは、 "青く透き通った瞳" を潤ませながら、心から嬉しそうに俺を見つめる。その瞳は、キラキラと輝いていた。そうな
それでも逃げようと機会を伺っていた店主が、出入り口に走ってきた。その目は、まだ諦めていない。コイツには、さらにツライ罰を与えてあげるか……。俺の心に、冷たい決意が宿った。 トゲトゲのウニの様な小さなバリアを膝の関節の間に出現させると、走っていた途中に出現させたので普通に膝を動かしてしまい雷が落ちたような衝撃が、脊髄を駆け上がり強烈な激痛が襲った。そして前に出した足に体重を掛けた瞬間、視界が真っ白に弾け、息すら奪われ気を失う程の激痛が走り、そのまま顔面から転がり激痛で苦しんでいた。顔は土と埃で汚れ、もはや形相と化している。彼の目からは、涙と鼻水が溢れ出ていた。「不法に売られていった子供の苦しみだと思って、そのまま罰を受けててくれ」 俺は冷たい声で言い放った。店主の苦痛に満ちた呻き声が、俺の言葉でさらに大きくなった。「ぎゃぁぁっ!!! クソっ! 何をしやがった!? 痛ぇー!! 許さねぇぞ! クソガキ!! 痛ぇ……クソっ!!」 店主は地面でのたうち回りながら罵声を浴びせる。ウルサイのでもう片方の膝にもバリアを出した。彼の叫び声は、店内に響き渡り、耳障りだった。「はぁ……ウルサイんだけど……黙っててくれる?」 俺がそう告げると、店主の顔がさらに苦痛に歪む。その目には、憎悪と絶望の色が混じっていた。「グゥオー!! 何しやがるんだ! 後で殺してやる! 絶対許さねぇ……」 元気だね……右肘にもバリアを出してみたら痛みで気絶した。店主は全身を痙攣させ、泡を吹いて動かなくなった。その姿は、まるで操り人形の糸が切れたかのようだった。 それを見ていた手下たちが青褪めた顔をし、立ちすくんでいた。彼らの目は、恐怖で大きく見開かれている。その場に張り付いたかのように、身動き一つしなかった。「おい……逃げられると思うか?」 盗賊の一人が震える声で仲間と話す。その声は、絶望に満ちていた。「無理
負傷している兵士に治癒薬を渡して、兵士達に指示を出した。治癒薬は瞬く間に傷を癒やし、兵士たちの顔に驚きと安堵の表情が広がる。彼らの目には、希望の光が宿っていた。「無事な兵士は、負傷してる者を外に運び出して」「はい!」 負傷していない兵士がすぐに動き出す。彼らの動きには、迷いがなかった。「残りの兵士も店から出て逃げる盗賊を捕らえて!」「はい!」 無事な兵士に負傷をしている者を外に引きずり出させ、外には回復をした兵士達が逃げ出してくる者を捕らえる為に店を取り囲んでいた。動きは新兵という訳ではなさそうだった。 店主が、なぜあれだけ堂々と違法なことを堂々と言い、悪びれる様子もなくしていた理由が分かった気がした。この兵士たちを見て確信した。取り締まりの経験がなく店など狭い場所での戦闘経験がない。ということは……この町では、あくどい商売をしても大ごとにならなければ取り締まりをされないってことだ。ここに来た兵士たちは新兵ではなく、動きからしてそこそこの経験を積んだ兵士に見えた。 店には俺と盗賊だけになると店主と、その手下がニヤニヤしだした。彼らは俺を単なる子供と見下しているのがありありと分かる。その顔には、嘲笑と侮蔑の色が浮かんでいた。 (まあ……俺みたいな一人のガキが相手だとそうなるよな……) 俺は、彼らの反応を冷静に分析した。「逃してくれるなら金貨5枚やるぞ? いや、10枚だ! どうだ?」 店主は、いかにも悪党といった顔で、俺を値踏みするように言葉を投げかけてきた。その声には、俺を誘惑しようとする魂胆が見え隠れしていた。 金貨を10枚革製の巾着に金貨を入れて見せてカウンターに置いた。 金貨10枚か……ここなら1年以上くらい遊んで暮らせる金額だな。金貨5枚や3枚とかケチらない辺りが場慣れをしている気がした。初動でケチって兵士が集まってくれば買収する金額が跳ね上がってしまう。初期段階で金貨10枚で逃げられれば安いもんだもんな…&
「なんだ……驚いたぞ、護衛とか言うからよ。それに剣も持っていたが?」 店主は納得して安堵の表情をして、更に疑問に思った事を聞いてくる。警戒が解けたようだ。彼の顔には、疑問が晴れたような清々しさが浮かんでいた。「あれは父親が冒険者で、お金を借りる手続きをするのに剣が邪魔になるから預かっていただけだよ」 俺は、もっともらしい理由を付け加えた。「あぁ……なんだ、そうか……そういう事か」 店主は完全に信じ込んだ様子で頷いた。その顔には、疑念が完全に晴れたような表情が浮かんでいた。そろそろ馬車に着いた頃かな……俺は、内心でそう推測した。♢不正の指摘と兵士の介入 ミリアと兵士が馬車に辿り着いた頃を見計らって、俺は店主に話し掛けた。「えっと……おたくの店って悪質な金貸しですよね?」 俺がそう切り出すと、店主の顔から笑顔が消え、眉間にしわが寄る。その表情は、まるで仮面が剥がれ落ちたかのようだった。「は? なんだ……急に?」 子供のイタズラだと思っているのか、悪い事をしている認識がないのか、もう当たり前となっていて悪事をしているという感覚が麻痺しているのか、素の表情で意味が分からないという顔をしていた。まるで因縁をつけられたという顔をしていて演技だとしたらスゴイな役者になれるんじゃないか? 俺は、彼の表情をじっと観察した。「返済に関して何の説明も無いですし……」 俺は、核心を突く言葉を続けた。「説明だと?」 店主は "ムッとした顔" で聞き返してきた……知らない訳がないと思うけど……説明する義務がある事を知らないで通そうとしているのか? まあ……知らないにしても、忘れていたとしても、どちらにしても違法だ。彼の目には、わずかな動揺の色が浮かんでいた。
軍人さんに不安を抱きつつも任務内容を話した。「貴方の任務は、ミリアの護衛とお金を借りる振りをしてもらう事です。それと、金貸しの不正があった場合の証人ですね。字が読めない人への説明が無く、返済金の合計額を言わないで、借りたお金の本当の返済金額を返済期日を過ぎてから返済しろと言ってくるのも違法ですよね?」 俺が確認すると、軍のお偉いさんを見ると頷いていたので問題は無いようだ。彼の表情は、事態の深刻さを理解したように引き締まっている。「不正の取締だったのですか……」 お偉いさんは、合点がいったように呟いた。「そうですけど?」「でしたら不正があった時の為に、兵士を手配をしておきます」「よろしくお願いします」 俺は深く頭を下げた。兵士の準備も出来て3人で金貸しのある店の近くまで馬車でやってきた。馬車の中は、微かな緊張感とミリアの浮かれた空気が混じり合っている。ミリアは窓の外を眺め、楽しそうに鼻歌を歌っていた。「さ~て……ここからは歩きで向かうよ」 俺は馬車を降りて、2人に声をかけた。「はぁ~い」 ミリアは……なんというかデート気分なのか楽しそうで、足取りも軽やかだった。一方の兵士さんは緊張で一言も話さず、緊張しきっていた。その顔は、まるで堅い岩のようだ。額には、冷や汗が滲んでいた。「はい!」 兵士は相変わらず軍人らしい大きな声で返事をした。「喋り方に気を付けて下さいよ……演技がバレたら終わりですからね?」 俺は、再度釘を刺した。「はい……」 兵士の声はわずかに小さくなった。その声には、反省の色が滲んでいる。「ミリアの名前は?」 俺は、もう一度確認した。「はい……ミーアですよね?」「はい、あってます」 店に入ると、偉そうな店主が自ら対応をしてく